2012年11月18日日曜日

選挙を前に思うこと〜政治家たちが取り上げないもう一つの大きな問題〜

 日本のメディアはランキングや数字が好きだ。日本のGDPが世界第二の地位から転げ落ち、中国に取って代わられた時は、メディアは連日それを大きく報じた。もちろん、経済成長率も、企業の損益も、内閣や政党支持率も重大ニュースだ。ノーベル賞の数だって、スポーツ選手やチームの世界ランキングだって、国民が知りたいニュースには違いない。でもNHKや大新聞までもがAKBの選挙を報じる一方で、メディアがほとんど無視し続けているものがある。

 それは、男女格差の数字だ。ダボス会議という名で知られる世界経済フォーラムが発表した2012年のGlobal Gender Gap Indexつまり世界の男女格差のランキングでは、日本は、世界135カ国の中で、101位と惨憺たる有様だ。そもそも日本は、3年前の2010年でも94位と、多くの先進国や発展途上国の後塵を拝していたのだが、状況はさらに悪化して、2011年の98位、そして今年の101位とこの三年間、降下を続けている。

 このランキングは、経済、教育、健康、そして政治の4つの部門の総合評価なのだが、対象としているのは、女性進出のレベルではなく、男女間の格差である。過去4年間、総合評価で一位に輝いているのはアイスランドで、2位から5位まで、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、アイルランドと北欧の国々が占めている。米国は22位、中国は69位、同じく世界経済フォーラムによる国際競争力評価で一位のスイスは10位。アジアでの最高位はフィリピンの9位だ。ちなみに女性格差の少ない北欧諸国は、国際競争力でも上位を占めている。

 なぜ、日本が男女格差でこんなにも低位置に甘んじているか、4部門の個別ランキングを見てみると、経済と政治の領域での102位と110位が総合評価を引きずりおろしているのが分かる。考えてみれば、教育面や健康面において男女格差を感じることはあまりないが、経済面における格差は、組織で働く女性のほとんどが多かれ少なかれ身を以て体験していることだろう。賃金の格差や、仕事での機会不平等、管理職の女性の少なさには説明を要しない。けれども2010年の数字で経団連企業の女性役員は0.5%、日本新聞協会役員、放送協会役員の女性比率が0%と聞くとやはりかなりショッキングな数字ではある。ちなみに政治では衆議院議員の女性比率は10.9%、参議院は18.2%にとどまる。

 日本は人口減と高齢化の時代を迎えている。それが意味するところは第一に労働力の縮小であり、それは生産力の低下、所得の低下、消費の低迷と税収の縮小につながり、日本の財政赤字のさらなる悪化を招くということだ。要するに、働き手として女性を有効活用しないと国力が低下する一方であるということは自明の理であり、緊急に対策を講じる必要がある。それが分かっているから政府も男女共同参画局なるものをおいているのだろうに、残念ながらおせじにも結果が伴っているとは言えない。グローバル・スタンダードからますます遠のいているのだ。ちなみに、やはり2010年の数字で、国際機関での専門職における女性の比率は56% 。これは、やる気と能力のある日本の女性は、機会が少ない日本を見限って国際機関を目指しているということを示唆している。国際的に仕事の場を求める意気は大いに賞賛するが、一方ではこればBrain Drain、つまり頭脳流出であるとも言える。これは本当にもったいない話だ。

 北欧諸国において男女格差が少ない理由は、第二次大戦後、労働力の不足に悩み、女性を社会の中枢に導入する政策を取ったからだ。今、日本は、戦後の北欧諸国と同じような状況であると言える。今こそ、日本が本気で、女性も社会の主要アクターとして位置づけ、その能力を十分に活用しなくてはいけない時期を迎えているのに、この3年間、チェンジをもたらしてくれるはずの民主党は、何の有効な手を打ってこなかったというのは残念至極だ。

 今、世の中は、選挙一色だ。毎日、15もあるという政党の離合集散が報じられている。どの政党も、被災地の復興、原発、消費税、TPP、領土問題、国会の定数削減などを取り上げており、どれも大事な問題であることは間違いない。けれどもどの政党も、この日本の社会の慢性病とも言うべき男女格差の問題に焦点をあて、それに真摯に向き合っているとは思えない。もしそういう政党があれば、それに一票を投じる有権者も多いだろうと思うのだが。考えてみれば、政党のトップの人たちにとっては、この問題は重大なことではないのだろう。どの主要政党の党首も働く妻を持っているようには思えないし、中にはあからさまに女性蔑視の行動や発言をする者もいる。彼らに望みを託することは、期待薄のように見える。政治の世界で女性のプレゼンスが少ない上に、古い体質の男性支配が歴然としているメディアの世界もまた、この問題を真剣に取り上げることがないと言うのは、悪循環という他はない。

 それを断ち切るには、もっとグローバルな視野を持ち、既得権益にまみれていない、若者たちの台頭が必要だ。もし、有効な政策や意味ある数値目標を掲げてこの問題に取り組む政党があれば、私の一票はそこにいくはずなのだが。残念ながら、そういう政党や政治家は今の所見当たらない。でも、そんな政治家が現れるはずはないと思っている限り、私の目の黒いうちに、日本が力強く再生の道を歩み始めるのを見ることはできないだろう。だから、遅々として進まない日本の社会変化に忍耐が擦り切れそうになっても、少しでも可能性を感じさせる政治家を探し出し、育てていかなくてはいけないのかもしれない。若者よ、そして特に女性たちよ、がんばれ!