2013年6月20日木曜日

あるイクメンの子育て記 〜少子化対策へのヒント〜


  あるイクメンの話を紹介したい。彼は、米系の金融機関で私の担当をしてくれている若きプロフェッショナル。実は初めて会った時、私はかなり機嫌が悪く、あまり口をきく気もなく押し黙っていた。それというのも、この会社は担当を頻繁に変えるので、また担当変え?といささかムッとしていたのだ。もちろん彼の責任ではないのだが。

 その時、目についたのが、机の脇に置いてある3人の小さな子どもたちの写真。「あなたのお子様たち?」という質問から、ようやく会話は少しずつ動きだす。今どき3人も子どもがいるのは珍しいと興味をそそられた私は、ずうずうしくも根掘り葉掘り彼を質問攻めにすることに。

「お子様たち、おいくつ?」

「上は6歳、下は2歳の双子です。」

「奥様がお家で育児をなさっていらっしゃるの?」

「いや、妻もずっと働いています。」

「それじゃ、近くにご実家がおありなの?」

「いや、両方とも遠いので、とても頼れません。」

「それじゃ、昼間はどなたが面倒を見ていらっしゃるの?」

「3人とも保育園に行っています。」

「へ〜え、どうやって連れて行くの?」

「朝はボクがチャリンコの前と後ろに双子を乗せて、長男は脇を走らせて、近くの保育園まで連れて行くんです。帰りもボクが迎えに行きます。妻は仕事から帰って食事の担当です。大変だけど、子どもと一緒にいるのは楽しいです。この間も親子5人でグアムに行きました。」

「すごいわねえ、余裕ねえ。でも、会社を定時に出るのは大変じゃない?」

「いや、全然問題ないです。いつも5時半には出られます。実はボクは以前に日本の金融機関にいたのですが、そこではあり得なかったことですけれど。」

「日本の会社にいらした時は、定時には帰れなかった?」

「まず無理ですね。仕事量が多かった上に、上司がまだ席にいれば、先に帰るのは難しい雰囲気でしたし。残業が当たり前でしたね。」

「それにしても2人とも働きながら3人も子育てをするのは偉い!でも、もう一人、女の子がいたら良いわねえ?」

「いやいや・・・・・」

 彼の話を聞きながら、すっかり嬉しくなっておしゃべりになった私。最後にはまったく余計なお世話的おばさん発言まで飛び出し、不機嫌もどこかに吹っ飛んでしまっていた。そして、自分の経験を思い出していた。そう、長年、複数の外資系企業で働いて来たけれど、残業が常態化したことは一度もなかった。そんなことをしても、誰も評価してはくれない。年休は貯めずに消化するように、毎年会社からお達しがあった。上司が長期休暇を取るので、部下も休みを取るのに何の遠慮もない。休みの間は誰か(部下や同僚)に権限委譲するので、大事な会議があったとしても問題なし。自己犠牲を強いる精神論が飛び出すことなども全くなし。個人の生活を大切にするのは、当然のことなのだ。

 少子化に歯止めをかけようと政府は必死だ。でも、育休の延長とか期間限定的な対策を講じるよりも、個人と会社の関わり方をより本質的に変える方法を模索する方がより大切なのではないだろうか。つまり、男も女も、個人生活を犠牲にせずに働くことを可能にする環境を整備する対策だ。そうすれば、イクメン願望を持つ男性たちは、堂々とイクメンに変身できる。そして、女性も安心して出産できる。

 しかしながら、この問題は深く考えれば考えるほど、いろいろな問題が絡み合っているのが見えてくる。どうして日本の企業で、「滅私奉公」的な働き方がまかり通るのかと言えば、その根本には、終身雇用の代償として個人の犠牲は仕方ないとする意識があると言える。転職しようとしても、「新卒重視」で労働の流動性が低いから、簡単にはいかない。残業の多さは、日本のホワイトカラーの生産性の低さと結びついている。

 このように考えてくると、イクメン増産には、制度整備はもちろんだが、なによりも企業と働く者、双方の意識の変化が必要だ。でも、私の担当のイクメン君が身を以て体験したように、違う働き方があるのだと言うことを知った人たちは、もう、昔の働き方に戻ることは決してないだろう。そういう人たちが増えていけば、企業だって変わっていかざるを得ない。そして政府がするべきことは、普通に働く人が普通に子育てをすることが出来るように、ありとあらゆる対策を講じ、若い人たちの味方になってあげることだ。


2013年6月6日木曜日

アベノミクスの成長戦略に欠けるもの 〜なぜ始めない、人口問題と移民受け入れの議論を〜


 昨日、安倍首相はアベノミクスの3本目の矢、成長戦略の第三弾を発表した。それを受けて、株価は急落。つまり、投資家が期待していたほどのインパクトのある戦略では無かったということだ。

 同じ日に、出生率が1.41に上昇したというニュースがあった。16年ぶりの1.4台への回復ということで、それ自体はグッドニュースとはいえ、出生率がいささか増えても女性人口総数が減っているので、少子化の歯止めになるにはほど遠い。現在の人口を維持するには、2.0 の出生率が必要なのだそうだ。所得の低下、非婚化、晩婚化、教育費の高騰などさまざまな要因を考えると、2.0を目指すのは至難だろう。そして、現在の出生率が続く限り2300には、日本国民は消滅するという計算になるらしい。

 安倍首相がするべきことは、まず、成長の阻害要因は、人口減少だということを明確にすることだ。真の問題は少子化ではなく、人口減少と言うことなのだ。もちろん少子化は問題でその対策は重要だが、それだけで人口減少を食い止めることはほとんど不可能なのからその少子化対策としてもインパクトに欠けること、はなはだしい。例えば、政府は先日「女性手帳」を配布しようとした、ブーイングの嵐が巻き起こったことは記憶に新しい。この件で街頭インタビューに応じた女性が、少子化の問題を女性に押し付けているようで不愉快だと述べていたが、さまざまな面での女性と男性の格差是正の対策を取ってこなかった政府が、この期に及んで、女性に子どもを産むことをお願いしても、そう簡単に納得できないのは当然だそんな手帳を配るくらいなら、婚外子差別を無くす法律でも作る方がずっと効果があるだろうに。

 政治家たちは、日本の人口減少に歯止めをかけるには、少子化対策だけでは難しいということを分かっているはずだ。いろいろな数字がそれを表しているのだから。そして、いまや移民受け入れることしか、人口減少を食い止めることが難しいことも分かっているのだと思う。移民受け入れは、メリットばかりでなく、もちろんデメリットもある。けれど、私が不思議に思うのは、あれだけ成長戦略に政権の命運を賭けている安倍政権で、移民に関する議論をしている様子がチラとも見えないことだ。

 先日、シンガポールのリー・クアンユー元首相が、「移民を拒む日本は、政策を変えない限り、人口が減り続け、ついには滅びる」と発言した。これだけ言われても、反論もせず、なおかつ、移民問題に正面から向き合わない政治とは、一体なんなのだろう。

 インパクトのある政策を提示しない限り、アベノミクスが機能しないことは、今日のマーケットの反応で明らかだ。今までとは次元の違う政策で、世界を驚かせれば、世界は日本を買うだろう。そして、経済上のメリットを別にしても、日本には寛容な国になってほしい日本に来て働きたいという外国人には、難民にも移民にも門戸を開けて、多様性に富む国になってほしいそれこそが成長戦略そのものとも言えるのだから。