2011年5月18日水曜日

所有より利用を。団塊の世代よ、お金を使おう。

40年以上前、大学生だった頃、友人たち7人とある翻訳の仕事をした。その時、稼いだお金は85,000円ほど。このお金は、使い道を思いつかないままに、銀行で眠り続け、皆の記憶からほとんど消え去っていた。震災後、はっと思い出し、預かってくれていた友人に聞いてみたところ、なんと4倍近くの323,500円になっているとの事。昔は普通預金でも金利が8%の時代があったのだ。ゼロばかりが並んでいる昨今の金利と比べてみると、実に信じがたいことではある。

そこで、これを7人で分け、一人5万円近くのお金を、被災者支援、子ども支援、あるいはペット救援など、それぞれ、思うところに寄付をすることになった。忘れていたお金の有効利用に、みな大満足。ついでに自粛ムードを吹っ飛ばそうと、仰々しくも「救国ランチ」と名づけ、久しぶりに皆が集まって、ちょっと豪華なランチをしながら昔話に花を咲かせた。

ここの所、食事でも、遊びでも、もっと真面目な講演会でも、できるだけ出かけることにしている。一つには、震災と原発事故以来、気が晴れず、何もしないでいるとますます心がウツウツとするような気がするからだ。でも、もうひとつは、余裕があるのなら、その分を消費や寄付などで、もっと社会に還元するべきだと思うからでもある。

私の世代は団塊の世代だ。この世代の特徴は、その人生の歩みが戦後の高度経済成長の歩みと大きくオーバーラップしていることだ。不景気やリストラの波を蒙ったこともあるけれど、大方の人にとって、その人生のほとんどを社会の成長軌道に乗って過ごせた幸運な世代なのだ。なんだかんだ言っても、職はあったし、年功序列の恩恵を受けて年とともに給料は上がったし(特に男性は)、退職金も手にし、年金だって今のところ支払ってもらっている。今の若者たちの厳しい状況とは大違いだ。

その結果、1400兆円とも1500兆円とも言われる日本の個人金融資産の大半は、私たち団塊の世代を含む60歳以上の高齢者層が保有しているのだ。リタイアした高齢者は、若い頃に比べて必要なものも余りなく、いざという時の不安を抱えているために、お金を使わずに、どこかの銀行やタンスで眠らせているというわけだ。でも、お金を寝かせておいても何も生み出さない。金利だって、なきに等しい昨今だ。社会が資金を求めている今、ほんの少しだけ楽観的になって、眠っている資産の一部でも有効利用したら、日本の社会の活性化に大いに貢献するはずだ。それは、すなわち若者にもう少し明るい未来を残すことにも繋がる。

財は所有するのではなく、利用すべきだと説き、それを実践したのは日本の資本主義の生みの親と言われる渋沢栄一である。彼は何百という会社を設立したが、それを所有することにあまり関心を示さなかったといわれる。渋沢栄一と比べるべくもないが、私たちも彼の精神を見習うことはできる。自分のためや人のためにもっと消費するのもよし。社会的事業を行っている企業やファンドに投資するのも、NPOで資金獲得に苦労している若者たちを支援するのもよし。「もったいない精神」や「節約の美徳」を教えられてきた私たちの世代ではあるが、ちょっと見方を変えて、今こそ、お金を上手に使うことを考える時なのではないだろうか。節約に汲々とするのは、今のところ、電力だけで十分だ。